またか。

最近横になっても二、三時間すると目が覚める。じじいか、俺は。
溜息を吐いて顔を横に倒してみる。
は胎児のように丸くなりながら、すうすうと寝息を立てていた。その寝顔に安堵する。これなら今日はもう悪い夢に魘されることはないだろう。
俺はベッドを降りると窓辺に向かった。途中、テーブルの上の煙草とライターを掴み一本に火を点ける。吐き出した白い煙は朝靄のように俺の身体に纏わりつく。
部厚いビロードのカーテンを捲ってみるとガラスを挟んだその先に本物の朝靄が立ち込めていた。
立っているのが面倒臭くて俺は窓に凭れる。冷えた窓ガラスが外気温の低さを伝えてきた。
寄り掛かったところから体温が徐々に奪われていくのを感じながら、面倒臭いが今日やらなきゃならないことを考えてみる。
本当に面倒なことばかりだ。
俺は煙草の火を消すとベッドに戻った。
はよく寝ている。
俺はそのそこに居るけれどそこには居ない女の髪を撫でてみた。


大丈夫だ。
俺はまだ狂っちゃいない。